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東京地方裁判所 平成9年(ワ)27431号 判決

甲事件原告兼乙事件被告

千代田生命保険相互会社

(以下「千代田生命」という。)

右代表者代表取締役

米山令士

右訴訟代理人弁護士

河上和雄

田宮甫

白麻子外六名

甲事件被告兼乙事件原告

小林哲夫(以下「小林」という。)

右訴訟代理人弁護士

鬼塚賢太郎

清水徹

小谷恒雄

主文

一  小林は、千代田生命に対し、二億五五七四万〇二六四円及びこれに対する平成六年一二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  小林の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は小林の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  請求

(甲事件)

主文第一項と同旨

(乙事件)

1  千代田生命は、小林に対し、一四四六万五六〇〇円及びこれに対する平成九年一二月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

2  千代田生命は、小林に対し、平成九年一二月一日から小林の死亡に至るまで、月額二七万八四〇〇円の割合による金員を毎月二月、五月、八月及び一一月の各一〇日を支払日として、それぞれの前月分までを支払え。

3  小林が平成一二年七月五日までに死亡したときは、千代田生命は、小林の妻(妻がないときは子)に対し、死亡日後同日(ただし、死亡日が同年七月六日より後であるときは、死亡した年度の終期)まで、前項と同額の金員を同項と同様の支払方法により支払え。

二  事案の概要

1  千代田生命は、明治三七年創業の生命保険事業等を目的とする相互会社であり、平成六年三月末日現在の従業員数は約二万二〇〇〇人、総資産は約六兆三一六六億円である。

小林は、慶応義塾大学法学部を卒業後、昭和二八年四月千代田生命に入社し、千葉支社長、大阪支社長等を経て、昭和五七年六月総合企画室副室長、同年七月取締役総合企画室副室長、昭和五九年四月取締役総合企画室長、昭和六三年四月常務取締役、平成元年四月常務取締役財務本部長、平成二年四月非常勤取締役にそれぞれ就任し、同年七月五日、取締役を退任した(争いがない)。

2  甲事件は、右のとおり千代田生命の元常務取締役財務本部長という要職にあった小林が、取締役退任後の平成四年七月から九月にかけて、大衆週刊紙等の記者に対し、千代田生命の社外秘に当たる情報及び資料を提供するという行為(以下「本件情報漏洩」という。)を行ったことにより、これに基づく記事が掲載され、その結果、千代田生命が、損害(顧客から保険契約のシェアダウンの措置を受けたことによる付加保険料の減少分及び名誉信用の毀損による慰謝料)を被ったとして、小林に対し、右損害の賠償を求めたものであり、乙事件は、千代田生命が、小林の本件情報漏洩等が千代田生命の役員拠出年金規定(甲五五)二五条一項一号ないし三号(一号 不正又は不都合の行為があったとき、二号 会社に損害を及ぼしたとき、三号 会社の信用を著しく毀損したとき)に該当するとして、平成七年二月分以降、役員拠出年金中の会社負担分について不支給とする措置(以下「本件不支給措置」という。)を採ったことから、小林が、千代田生命に対し、未支給分等の支払及び本件不支給措置が違法であるとしてこれにより被った精神的損害の賠償を求めたものである。

3  甲事件の請求原因の要旨は、次のとおりである。

(一)  小林は、自己が千代田生命の要職にあったことから、自分が雑誌記者に対して千代田生命の社外秘に当たる情報及び資料を提供すれば、これらが記事として雑誌に掲載公表され、千代田生命の名誉信用が毀損されることを認識、容認して、平成四年七月別表1の情報を中西昭彦に、同年九月別表2の情報及び資料(甲三、四七)を森功に、同年一一月別表3の情報を森功にそれぞれ提供した。

(二)  小林が提供漏洩した情報及び資料は、生命保険会社として守秘義務のある千代田生命の特定の融資先との個別の取引内容の外、会社の人事問題、経営問題に係る社内の稟議の内容であり、これらが公表されれば、千代田生命の名誉信用が失墜して、千代田生命の業務執行に支障を来たすことが明らかであるから、これらの情報及び資料が、千代田生命の社外秘に当たることは当然である。

小林は、信義則上、退任後も、在任中に知り得た社外秘に当たる情報を他に漏洩しないという義務を負っていると言うべきであるから、本件情報漏洩は違法である。

(三)  中西は、小林から提供された別表1の情報に基づき、「財界展望」平成四年九月号に「千代田生命神崎体制の重大危機」と題する記事(甲一)を掲載公表した。

森は、小林から提供された別表2の情報及び資料を株式会社新潮社の門脇護へ提供し、同人は、これらに基づき、「週刊新潮」平成四年九月一七日号に「火がついた千代田生命不良債権五〇〇〇億円と検察」と題する記事(甲二)を掲載公表した。

森は、小林から提供された別表3の情報を株式会社新潮社の中田健夫へ提供し、同人は、これに基づき、「週刊新潮」平成五年一月七日新年特大号に「打ち止めとは行かない『竹下登』新スキャンダル」と題する記事(甲五)を掲載公表した(以下これらの記事を「本件各記事」という。)。

(四)  本件情報漏洩と本件各記事による千代田生命の名誉毀損との間には、メディアによる独自の判断が介在しているとしても、情報提供者が提供した情報内容に従った記事が掲載される蓋然性が高く、かつ、情報提供者自身がこのことを予測し容認していた場合には、情報提供行為と記事による名誉毀損との間の相当因果関係は存在すると言うべきである。

本件の場合、小林が提供した情報及び資料は、同人の在任中の地位からして、千代田生命の中枢に属する情報であり、一ジャーナリストが容易に取得し得るそれではない。そうである以上、小林がかかる情報を提供すれば、当該情報がほぼ原形のまま記事として掲載公表される蓋然性は非常に高く、かつ、小林自身もこのことを予測容認していたはずである。現に本件各記事を見れば明らかなとおり、小林の提供した情報は、いずれも千代田生命の元役員、関係者等のコメントとして、かっこ書きで、発言をそのままの形で引用する形式で掲載され、かつ、コメント部分が記事の目玉となっているのである。よって、本件情報漏洩と本件各記事による千代田生命の名誉毀損との間には相当因果関係がある。

(五)  損害

(1) 企業年金保険契約のシェアダウンによる付加保険料の減少分

① 日本電装株式会社(以下「日本電装」という。)関係

千代田生命は、昭和六四年一月一日、日本電装との間で、企業年金保険契約を単独(シェア一〇〇パーセント)で締結した(甲六)。

しかるに、平成四年九月中旬、同社常務取締役岩出力から千代田生命名古屋本部長前野昌彦に対し、甲一及び甲二の記事の掲載を理由としてシェアダウンの申入れがあり、同年一〇月二二日付け通告(甲七)により平成五年一月一日から一〇〇パーセントから五五パーセントとなり、さらにその後の交渉途上で甲五の記事が掲載されたことから、同年一二月六日付け通告(甲八)により平成六年一月一日から五五パーセントから五〇パーセントにダウンした。右二度にわたるシェアダウンにより、千代田生命は、平成五年一月分から平成六年七月分まで合計二億三〇五二万〇〇九五円の付加保険料の減少による損害を被った。

② 日本ロシュ株式会社(以下「日本ロシュ」という。)関係

千代田生命は、昭和六三年九月一日、日本ロシュとの間で、企業年金保険契約を単独(シェア一〇〇パーセント)で締結した(甲一〇)。

しかるに、平成五年七月、同社常務取締役内藤冽から千代田生命に対し、本件各記事の掲載を理由としてシェアダウンの申入れがあり、同年七月二九日付け通告(甲一一)により同年九月一日から一〇〇パーセントから二〇パーセントにダウンした。

右シェアダウンにより、千代田生命は、平成五年九月分から平成六年一〇月分まで合計一五二二万〇一六九円の付加保険料減少による損害を被った。

(2) 慰謝料 一〇〇〇万円

4  小林は、請求原因事実をすべて否認し、次のとおり反論した。

(一)  本件情報漏洩と本件各記事による千代田生命の名誉毀損との間には、相当因果関係がない。

情報提供者がメディアの編集方針を事実上決定するような影響力を有し、あるいは提供した情報をそのまま記事にすることを免れないような関係にあった等の特別の事情があれば格別、メディアが独自に内容の記事としての適当性を判断し、記事の配置、活字の大きさ、見出し等すべてその権限と責任において決定したとすれば、単に取材に応じ情報提供した行為と記事による名誉毀損との間には相当因果関係がない。

本件各記事もメディアの独自の編集を経て掲載頒布されたものであり、小林としては、情報提供したことはないが、仮に小林が取材を受け、情報提供したことがあるとしても、これと本件各記事による千代田生命の名誉毀損との間には相当因果関係がない。

(二)  仮に、小林が別表1ないし3の情報を提供したとしても、違法性がない。

名誉毀損とは、人に対する社会的評価を低下させる行為であると言われているが、憲法二一条が保障する表現の自由との関係があるから、すべての評価低下行為が直ちに名誉毀損として不法行為を構成するものではない。

ある評価低下行為が不法行為を構成する名誉毀損になるかどうか、すなわち、具体的な事柄についての名誉毀損の成否は、表現の自由という憲法上の社会的価値を視野に入れて初めて決定し得る問題なのである。

仮に、対象が個人であったとしても、政治家、官僚、学者、芸術家等の言動や作品につき事実を摘示して論評する行為は、公的活動と無関係な私生活の暴露や、いたずらな誹謗、人身攻撃でない限り、それによって被論評者の社会的評価が低下させられても、なお、論評の自由の範囲内として違法性を欠くとされる場合が多い。

企業は、個人と比べ、一般的に公的活動の面が広いと言えるが、特に千代田生命のような生命保険相互会社という公共性の強い企業にあっては、右の違法性を欠く度合が格段に大きいことはいうまでもない。

違法性を欠く評価低下行為は、マスコミを含む論評者にとって表現の自由に属するものであるから、その取材、発表はあくまで自由な合法行為であり、これに対応して、取材に応じ、あるいは資料を提供した者がいたとしても、特に制定法や個人間の特約によって禁止されていない限り、守秘義務に違反したものとはいえない。

別表1ないし3の事項がすべて守秘義務の対象であるとする千代田生命の主張は、右の表現の自由の保障との関係を無視し、また、公共性の強い企業を単なる私人と同視すべきことを主張するもので、明らかに失当である。

(三)  別表1ないし3の事実及び本件各記事が公共の利害に関するものであることに疑いはない。本件各記事は、保険契約者にとって必要不可欠な情報を公開しているものであり、保険契約者にとっては、保険の選択の権利行使に役立つばかりでなく、ジャーナリズムの批判は会社への監視的役割を果し、会社の不健全な経営の是正に役立つもので、公共の利益を増進するものと言える。

そして、小林は、専ら公益を図る目的で本件各記事に関与した。

小林は、昭和二八年に千代田生命に就職して数十年を経るうちに、同社が人の行為によって変質していく様をみて、次第に危虞するようになった。すなわち、社内に法規の無視、公私混同、情実人事等が横行するようになり、その結果として保険契約者が現実に損害を受ける可能性を持つに至ったことを大変憂慮していた。

小林は、平成元年四月から平成二年三月一四日まで財務本部長という資産運用上の枢要な地位についたが、現実には小林を避けて飛び越えたトップダウン式の決定が多々なされ、無力感を感じていた。

一部保険会社の危険な状況をかぎつけたマスコミが、平成三年ころから、これを取り挙げ、多額の不良債権化のおそれを報じて警鐘を鳴らし始めたことから、千代田生命の退職役員である小林に対しても、平成四年七月ころから取材のアクセスがあった。小林は、保険契約者に知らされる情報が不確実であってはならず、さりとて会社に大打撃を与えず、反省、改善につながるものならと思い、注意深く取材に応じた。記者は、既にかなりの情報を持っており、小林は、主としてこれの正否の確認を求められることになった。

小林は、かかる事実が正しく報道されれば、千代田生命の改善と再生につながり、かつ、保険契約者の利益にもなると考えた。換言すれば、小林は、ひたすら千代田生命の現状と将来を憂え、同社の前途を思う衷情から取材に応じたのである。

最後に、別表1ないし3の事実は真実であるから、仮に、小林がこれを提供したとしても、違法性が阻却される。

5  乙事件の請求原因の要旨は、次のとおりである。

(一)  千代田生命には、役員について役員拠出年金規定(甲五五)が定められており、小林は、平成二年七月五日、役員を退任したことにより年金の受給権を取得し、同規定六条のなお書に該当したことから、同年一〇月一日から支給が開始された。

(二)  しかるに、千代田生命は、平成七年一月三〇日付け書面をもって、小林に対し、本件情報漏洩が同規定二五条一項一号ないし三号に該当するとして、同年二月分以降の年金のうち会社負担分(月額二七万八四〇〇円)について不支給とする旨を通知し、平成七年二月分以降の支払をしない。右未払額は平成九年一一月分まで合計九四六万五六〇〇円となる(月額二七万八四〇〇円×三四か月)。

(三)  千代田生命が右のような不法な理由を構えて本件不支給措置を採ったことにより、小林は精神的苦痛を被ったが、その慰謝料は五〇〇万円を下らない。

(四)  また、本件不支給措置の理由に照らせば、千代田生命は、平成九年一二月分以降の年金についても支給をしないと予想されるので、予めその請求をする必要がある。

6  千代田生命は、請求原因(一)、(二)は認め、(三)、(四)は否認し、抗弁として、本件情報漏洩は、同規定二五条一項一号ないし三号に該当すると主張した。

7  小林は、右抗弁を否認した。

三  争点に対する判断

(甲事件について)

1  証拠(甲一、二、四、五、一四、一七ないし二九、三二、三四ないし三六、四六ないし五〇、五三、乙二、四の各一部、三四、六七の一部、七二、七三の各一部、八一、八二、証人五十嵐幸弘、小林本人の一部)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 請求原因(一)及び(三)の事実

(二) 小林は、当時の神崎安太郎社長に対して悪感情を抱いており、同社長の失脚及び神崎体制の崩壊を希求していたこと

(三) 小林は、平成六年一二月六日、千代田生命から書面(甲三五)で甲事件請求に係る損害賠償の請求を受けるや、自宅について、翌七日債権額四〇〇〇万円、抵当権者妻順子とする抵当権設定登記を、同月一三日には同月九日贈与を原因とする妻順子への所有権移転登記をそれぞれ経由し(甲三四)、次いで、同月二五日、同事件請求に係る訴状の送達を受けるや、翌二六日、妻と協議離婚の届出をし(甲三二)、自宅について、右贈与を原因とする所有権移転登記を抹消した上、同日財産分与を原因とする順子への所有権移転登記を経由し(甲三四)、五か月後の平成七年五月一九日、前妻順子と婚姻の届出をした(甲三二)こと

2  右事実によれば、小林は、神崎社長の失脚及び神崎体制崩壊を意図して、本件情報漏洩を行ったと認められる。

3 小林が記者に提供した情報は、生命保険会社として守秘義務のある特定の融資先との融資取引の内容や千代田生命内の人事問題、経営問題に係る社内の稟議の内容であり、これらのいわゆる会社の内部情報が公表されれば、会社の業務執行に支障を来すことは明らかであり、これらの情報は、会社の機密に属する事項として法的保護の対象となると言うべきである。

小林は、もと千代田生命の常務取締役であり、在任中であれば、職務上知り得た会社の内部情報について、取締役の忠実義務の一内容として守秘義務を負うことは当然である。そうだとすれば、小林は、役員退任後も、信義則上、在任中に知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うと言うべきであり、このように解さなければ、当事者の信頼関係を基調とする委任契約の趣旨は全うされないことになろう。

4 小林は、表現の自由及び千代田生命の公共性を理由に、本件情報漏洩には違法性がないと主張するが、本件は、退任した取締役が在任中に職務上知り得た会社の内部情報について守秘義務を負うかどうかの問題であるから、守秘義務違反と認められる以上、本件情報漏洩は違法と言わざるを得ない。

5 本件各記事が千代田生命の醜聞を取り挙げたものであり、その内容が千代田生命の名誉信用を毀損することは明らかである。そして、本件情報漏洩が本件各記事の執筆につながり、これが千代田生命の名誉信用の毀損という結果を招来したことは否定すべくもないから、本件情報漏洩と本件各記事による千代田生命の名誉信用の毀損との間に因果の連鎖があることは疑いがない。問題は、両者間にメディアの独自の判断(編集権)が介在することにより因果関係が否定されるかであるが、情報提供者が提供した情報内容に従った記事が掲載される蓋然性が高く、かつ、情報提供者自身がこのことを予測し容認していた場合には、情報提供行為と記事による名誉毀損との間の相当因果関係は存在すると言うべきである。

本件についてこれを見れば、小林は、本件各記事が問題とするバヴル期の乱脈融資について、これに参与する地位にあった者であり、小林から提供された情報及び資料は、記者から見れば、千代田生命の中枢にいてその内実を明らかにすることができる者ないしは有力な内部告発者のそれとして喉から手が出るほど欲しいそれであったことは推測に難くない。

そうであれば、小林がかかる情報を提供すれば、当該情報がそのような情報としてほぼ原形のまま記事として掲載公表される蓋然性は相当高い(そうでなければ、スクープ記事としての意味はない)はずであり、かつ、小林自身も記者が自分に対して取材を申し込んできたことから、当然このことを予測容認していたはずである。現に、甲一、二の各記事は、小林の提供した情報を元役員、関係者または内部告発者のコメントとして、かっこ書きで、発言をそのままの形で引用する形式で掲載し、かつ、資料も原文のまま引用しているのであり、これがこれらの記事に迫真性を与え、スクープとしての価値を付与していることは、記事を一読すれば、自ら明らかであろう。

よって、本件情報漏洩と本件各記事による名誉毀損との間には、相当因果関係があると言うべきである。

6  そこで、損害について検討する。

(一) 証拠(甲六ないし一二、一四、一五、四一ないし四四、証人五十嵐幸弘、同吉井啓一、同前野昌彦)及び弁論の全趣旨によれば、請求原因(五)(1)の事実が認められる。

(二) 確かに、証拠(乙八ないし一四、三九)によれば、平成三年一一月から平成五年一月にかけて、本件各記事以外にも千代田生命に関する醜聞記事が雑誌や週刊紙に掲載されたことが認められるが、甲一、二の記事は、千代田生命のいわゆる内部情報や資料を中心に組み立てられているという特色があり、そのために、他の記事と比較して読者に対するインパクトは大きいと推測されるから、本件各記事がこれら他の記事と相まって企業年金保険契約のシェアダウンにつながったことを否定することができない以上、これら他の記事の存在は、両者間の因果関係を肯定するについて妨げとなるものではない。

(三) そして、本件に顕れた一切の事情を斟酌すれば、慰謝料の額は一〇〇〇万円を下らないものと認める。

(乙事件について)

7 以上によれば、本件情報漏洩が役員拠出年金規定二五条一項一号ないし三号に該当することは明らかであり、千代田生命の抗弁は理由がある。

8 本件不支給措置の合理性、相当性について若干補足する。

(一)  証拠(甲五四、五五)及び弁論の全趣旨によれば、千代田生命の役員拠出年金制度は、会社が、その費用で(すなわち、一部負担金を支払って)、退任後の役員の年金の上乗せを実施する(すなわち、既に委任契約が終了したかつての役員に対し、委任契約後も経済的支援をする)制度であり、会社と役員との間に、退任後も一定の信頼関係が存続することを当然の前提としていること、小林は、現在、役員拠出年金の自己負担分の外、厚生年金、職員拠出年金の三種の年金を受給しており、一か月当たりの受給額は約四〇万円であることが認められる。

(二)  右事実によれば、元役員が、会社から年金の上乗せという形で経済的支援を受け続けながら、他方で、会社に対し、不正、不都合な行為を行い、会社の信用を毀損し、会社に損害を与える行為を行うことが信義則上許されないことは言うまでもないから、役員拠出年金規定二五条の定めは合理的なものと認められるし、これに基づく本件不支給措置が不相当であるとは到底言えない。

(まとめ)

9 よって、甲事件請求は理由があるから認容し、乙事件請求は理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官髙柳輝雄 裁判官足立哲 裁判官山田篤)

別表1 「財界展望」一九九二年九月号掲載の記事中における被告提供の情報部分〈省略〉

別表2 「週刊新潮」一九九二年九月一七日号掲載の記事中における被告提供の情報部分〈省略〉

別表3 「週刊新潮」一九九三年一月七日号掲載の記事中における被告提供の情報部分〈省略〉

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